その劇薬は甘い

今週のお題「あまい」

 

私はまだ神田橋処方も知らなかったのでフラッシュバックを防ぐために常日頃何かしらの音楽を聴いていたが、その中には有象無象のドラマCDもあった。その物語中に言われた醜ければ醜いほど美しいという言葉は、当時の私にとって劇薬の如き甘さのある言葉だった。喉が焼けるような甘さが耳から脳へと直撃したのである。生きている間のあらゆる言葉が自分を助けてくれるわけでもないのに外へ放り出すために利用されるものであった。その影響でボロボロになっていた心身を抱き上げてくれたのである。

 

そのドラマCDから与えられた言葉はすべてがあまりに鮮烈だった。私の頭の中を吊り橋効果があったのかもしれないが、思春期の春の色をすべて彼一人が染め上げてしまったのではないかと思う。アイスクリームを掬うように私の上辺の価値観すべてを奪っていったのである。恋慕というよりはほとんど生き方の師に近い。言峰綺礼に対するギルガメッシュの言葉のように、彼は私の根底にあった私が自分に対してさえなるべく隠していた感情を呼び起こし、私の命の炎に気が付かせてしまったのだ。

 

この炎は私にも扱い方がわからぬままである。きっと風が吹いたら何もかもが燃えてしまうのだと思うので、火に風が入らないように見張ってなくてはならない。たとえそれが何もしてないようだと言われていても、私はそうするしかないのである。彼が教えてくれなければ、自らが焼け死ぬところだったのだ。思えば物語でも焼身しようとしていたところを止めてくれる物語だったのを思い出す。